第1回「『生きる』教育」研修会を開催しました

貧困・格差

 2024年8月24日(土)、25日(日)の2日間で、「貧困・格差・虐待の連鎖を乗り越える教育アプローチの研究開発と普及」プロジェクトの第1回「『生きる』教育」研修会を開催しました。

 「『生きる』教育」は、子どもたちが人生の困難を乗り越えるため、大阪市立生野南小学校(現・田島南小中一貫校)で開発・実践されてきた教育プログラムです(*1)。今回の研修会では、「『生きる』教育」を実践したい方々に向けて、指導方法を学ぶワークショップが行われました。あわせて、「『生きる』教育」の開発の基盤となった研究的・実践的知見についての講演が行われました。

 この記事では、研修会の内容や様子をお伝えします。

(*1)「『生きる』教育」の詳細はプロジェクトページをご覧ください。

1日目

オープニング

 オープニングは、京都大学大学院教育学研究科の齊藤 智研究科長と、三井住友フィナンシャルグループ社会的価値創造推進部の髙市 邦仁部長の挨拶から始まりました。

 齊藤研究科長は、「『生きる』教育」を「罰なき社会」という切り口で語りました。「罰なき社会」とは、人々の行動が、罰ではなく正の結果(教育効果や報酬)によって導かれる社会を指します。「『生きる』教育」は、教育アプローチにより個人の行動を変え、「罰なき社会」を実現しうるものであるとのお話でした。

 髙市部長は、SMBC京大スタジオの設立経緯や目標についてお話ししました。SMBCグループは、重点的に取り組む課題(*2)として「貧困・格差」や「日本の再成長」を掲げています。「『生きる』教育」の開発・普及は、「貧困・格差」の解消、「日本の再成長」に繋がるのではないかと期待を述べました。

(*2)SMBCグループの価値創造プロセスと重点課題はこちらをご覧ください。

 続いてSMBC京大スタジオのプロジェクト代表者である西岡 加名恵教授(教育実践コラボレーション・センター長)が「『生きる』教育」の概要や求められる背景をお話しし、研修プログラムが始まりました。

左から齊藤研究科長、髙市部長、西岡教授

講演:「『生きる』教育」で変わる未来~少年院、グリ下の若者たちへの実践で学んだこと

 研修会の1つ目のプログラムは、辻 由起子先生のご講演でした。
 講演のタイトルは「「『生きる』教育」で変わる未来~少年院、グリ下の若者たちへの実践で学んだこと」です。辻先生は、親に頼ることができない子どもたちの支援を通して、家庭・地域・社会の課題に取り組んでおられます。講演では、実際に辻先生が関わってきた子どもたちの声を交えながら、現実で何が起こっているのか、どういう支援が求められるのかをお話してくださいました。講演の最後には、社会と適切につながる「精神的自立」、他者に助けを求め快くサポートを受け止める「受援力」が重要だというメッセージで締めくくられました。

辻先生

ワークショップ:「子どもの権利条約って知ってる?」

 2つ目のプログラムとして、現場で「『生きる』教育」を実践してきた先生方によるワークショップが行われました。講師は木村 幹彦先生と別所 美佐子先生のお二人です。実際に小学校3年生向けに行われている「『生きる』教育」のプログラムをもとに、「子どもの権利条約って知ってる?」の模擬授業を実演してくださいました。

 研修会参加者は実際の授業と同じように、まずは子どもの権利条約を学びます。さらに、子どもたちが直面する具体的な場面を想定して「どの権利が守られていないか」などをディスカッションしていきました。

左から木村先生、別所先生

講演:虐待が子どもに及ぼす心理的影響の理解と支援(1)

 1日目最後のプログラムは、「虐待が子どもに及ぼす心理的影響の理解と支援」の講演でした。講演者の西澤 哲先生は、「『生きる』教育」の論理的な基礎を提供された先生方のお一人です。臨床心理学・臨床福祉学の研究者として、また児童養護施設などで子どもたちと向き合ってきた専門職として、虐待が子どもの心理に与える影響について語ってくださいました。

西澤先生

2日目

講演:虐待が子どもに及ぼす心理的影響の理解と支援(2)

 2日目の前半は、1日目に引き続き、西澤先生の講演でした。2日目は、子どもの心理と密接に関係するアタッチメント(愛着)を中心にお話しされました。虐待を受けた子どもは保護者とのアタッチメント形成が上手くできておらず、社会との関係も上手く築けない場合が多いそうです。学校に安心できる場をつくる「『生きる』教育」の重要性を裏付けるお話になりました。

西澤先生

ワークショップ:「リアルデートDV -支配と依存のメカニズム」

 2日目の後半は、「『生きる』教育」の実践者である西村 建一郎先生、小野 太恵子先生、田中 梓先生によるワークショップでした。テーマは「リアルデートDV -支配と依存のメカニズム」で、田島中学校では中学校2年生が実際に学ぶ内容です。
研修会参加者はワークで手を動かしながら、どういったことがDVとされるのか、なぜDVが起こるのかなどを学びました。講師の先生方は、実際の授業で生徒がどのような反応をするのかなどを話しながら進めてくださいました。

左から西村先生、田中先生
小野先生

クロージング

 最後に、田島南小中一貫校校長の今垣 清彦先生よりご挨拶をいただきました。田島南小中一貫校での「『生きる』教育」の取り組みについて、今垣先生から改めてお話いただき、2日間の研修が終了しました。

今垣先生

研修会を終えて

 研修会後のアンケートには、「非常に勉強になった」「講演を聞いて経験と理論がつながった」「「『生きる』教育」を実践してみたい」といった感想が多く寄せられました。また、今回は学校関係者だけでなく、福祉・医療関係者、NPO法人関係者、企業人などさまざまな組織の方が参加しました。「多職種の方とつながることができた」「自分とは違う立場の方々の意見を聞けた」といった声もありました。講師と参加者の皆さんの熱意により、充実した研修会になりました。
 当日の様子は、こちらで公開している動画をご覧ください。

 SMBC京大スタジオでは、今後も定期的に「『生きる』教育」研修会を開催する予定です。関心を持たれた方はぜひ、イベント情報をチェックしてみてください。

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