研究者インタビュー(京都大学/児玉先生)

少子高齢化

何かあったときにどうするか。人生における意思決定を、社会全体で考える

 「誰もが生前・死後の尊厳を保つための持続可能な身じまい・意思決定とその支援」のプロジェクト代表である京都大学/児玉聡先生に、向き合う社会課題や関心を持ったきっかけ、そしてプロジェクトへの思いを聞きました。 
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共助のやせ細りで意思決定がますます困難に

 現代の社会課題のひとつとして、共助のやせ細りが挙げられると思います。共助のやせ細りというのは、家族や親戚、地域の人など、身近な人の協力が得られにくくなっているということです。特に、高齢期に身近な人の支援が受けられない人が増えていることが課題になっています。人生の身じまいの段階では、ひとりひとりが自分にふさわしい意思決定をしていくことが重要です。しかし、決定すべきことが多く、すべての事項を自分で決めていくのは現実的ではありません。一方で誰かが代理することも難しく、周囲の支えが受けられない中で個人の意思決定をどのように支えていくのかが、非常に重要な問いだと考えています。

終末期医療において課題になる意思決定

 私自身は以前から、終末期医療の倫理に関する研究をしてきました。終末期医療の倫理といえば安楽死の問題が最も有名ですが、それ以外にも病院では、終末期にある高齢患者の治療の継続や中止といった決断を日々迫られています。終末期医療では「本人の意思確認ができる場合は、本人の意思決定を基本にする」という原則があります。本人の意思確認ができない場合は、家族の推定意思を尊重し、医療者とも話し合って本人にとって最善の方針を取るようにします。それでも、本人が何を考えていたか分からない場合は少なくありません。

 本人の意思を確認するため、ACP(アドバンス・ケア・プランニング)(*1)が推進されています。厚生労働省事業の調査(*2)では、終末期医療・ケアに関する国民の関心はある程度高いものの、ACPの認知度は低く、周囲との話し合いも十分でないという結果が出ています。私は、ACPは自己決定尊重のために重要だと感じつつも、国民全員ができるものにはならないように思っています。

 このように、終末期医療では、最期の意思決定をどうやって患者さん本人が望むものに近づけていくかが重要なテーマになっています。意思決定については、終末期医療以外の場面でも問題になっているのではないかと思っていました。日本総研の沢村さんから高齢期の身じまいの課題について伺い、ここにも意思決定の課題がありそうだと思ったことが、プロジェクトの立ち上げに繋がりました。

(*1)ACP(アドバンス・ケア・プランニング):将来の医療やケアについての方針を、本人を中心に家族や医療者などが話し合うこと。

*2)「人生の最終段階における医療・ケアに関する意識調査 報告書」

目指したいのは、高齢者差別のない社会

 このプロジェクトの隠れたテーマは「高齢者の差別をなくすこと」だと思っています。高齢者の医療は早く中止してもよいのではないか、高齢者は早く引退した方がよいのではないか、という考え方をする方がいらっしゃいます。しかし、そうした考え方が高齢者の中でも内面化されると、高齢者は自分のことは自分でなんとかしなければならないと思ってしまいかねません。私は、孤独な高齢者が自己決定ばかりを強いられない社会を目指したいと思っています。

 死について考えることは、先送りしてしまいがちです。しかし、何かあったときにどうするか、あらかじめ意思決定して行動に移しておくことも大切なことです。個人や家族に任せきりにするのではなく、地域社会や企業も含めて、この問題に取り組んでいくことが重要だと考えています。SMBC京大スタジオのプロジェクトを通して、人生で起こる様々なイベントに対する意思決定のあり方について、皆さんと考えを深めたいと思っています。

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