イノベーションの追求から多様性へ。凸凹が当たり前と皆が受け入れる社会にする。
「発達障害特性がある人材の就労における能力発揮支援」のプロジェクト代表である木村智行研究員に、向き合う社会課題や関心をもったきっかけ、そしてプロジェクトへの思いを聞きました。
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発達特性の人々の特別ではない活躍事例・裏付けが必要
発達特性がある人々の活躍事例は、起業家やアーティストをはじめ多く報告されています。このような突出した人材の場合、ご自身の努力もさることながら良い環境や巡り合わせがあり、仕事上のパフォーマンスと心身の安定の確保に成功したのだと思います。一方、多くの発達特性がある人々は、周りからの理解が得られず、自尊心や自己肯定感が下がることが多いと言われます。その結果としての精神疾患や社会との不適応が能力発揮のための“社会的な障害”となっています。そのため、現状では突出した結果を残した人物を見て「あの人は特別だよね。」という一事例としての理解で終わってしまうのが社会全体の課題と感じています。突出した能力を持ち自分に合う環境と巡り合えた人だけでなく、活躍事例を広く作っていくこと、またその裏付けとして医学的エビデンスを示すことが重要と考え、義村先生と共同事業に取り組んでいます。
発達特性という多様性がイノベーションを生み出す
多様性について、課題の意識を持った最大のきっかけは、SMBCの ITイノベーション推進部(当時)での経験です。私は中途でSMBCに入行し、新しい風を吹き込むことを求められる立場でした。イノベーション領域では、多様な人材からさまざまな視点を取り込むことが必要だといわれます。外部から来た私からすると、当時の銀行は非常に同質的な人材で構成されているように見えました。実際に私は非金融領域からの3番目ぐらいの中途採用例で、当時の銀行員の大多数は新卒から銀行で働いている方々だったのではないかと思います。そうした環境下で、私は組織の中へ新しい価値観をいかに取り込み、どうやったらイノベーションにつなげられるかを考えてきました。そして、いまでは多様性というのは変化に対応にするためにあらゆる組織、ひいては社会に必要だと考えています。
スタジオのプロジェクトでは、発達特性がある人々の多様性に焦点をあてます。発達特性のある人の物事の捉え方はとてもユニークです。このユニークさは脳・神経レベルの違いからくるものです。つまり本人が生来的に持っているものであり、誰かが真似できるものではありません。ところが、イノベーション部隊のように特に多様性を必要とする組織であっても、今まで明示的には取り入れてこれなかったと思います。もちろんイノベーション部隊に限らず社会全体で就労の状況を見てみても、発達特性がある人々は困難な状況にあります。
一方で、私のバックグラウンドがIT領域でもあり、発達特性が良い形で発揮される可能性が十分にあるという感覚があります。実際、技術力の高さと特性の強さは、一定の相関がありそうだと強く感じる経験もしてきました。特に高度・先端 IT領域は人材が不足しており非常に付加価値が高い分野です。ここで発達特性がある人々が活躍できれば、世の中の価値観は大きく変わるんじゃないかという期待が私の中にあります。
凸凹が当たり前に受け入れられる社会を目指す
これまで企業では、完璧なビジネスパーソンであることが求められてきたと思います。また、ビジネスだけでなく、私人としても同様です。例えば子育てでも完璧な父母でなければならないという考えが、強く根付いているのではないでしょうか。そうすると、あらゆる場面でダメな自分をさらけ出せない、その結果として期待を受け止めきれず、みんなが苦しい状況に陥っているように感じます。ダメなところがあっても「ここで活躍できるならいいじゃん。」という、凸凹を受け入れる価値観が当たり前になればいいと考えています。そうなれば、自分にとっても過ごしやすいなと感じます。私自身もよく頼まれごとを忘れてしまい、しまったと思うことがありますし。本プロジェクトを通じて、凸凹が当たり前と皆が受け入れる社会を目指していきたいと思います。