2024年12月11日に、「貧困・格差・虐待の連鎖を乗り越える教育アプローチの研究開発と普及」プロジェクトの第3回「『生きる』教育」研修会をオンラインで開催しました。「『生きる』教育」は、子どもたちが人生の困難を乗り越えるため、大阪市立生野南小学校(現・田島南小中一貫校)で開発・実践されてきた教育プログラムです。(*1)
(*1)「『生きる』教育」の詳細はプロジェクトページをご覧ください。
今回の研修会では、「『生きる』教育」の理論的基盤を提供した西澤哲先生(山梨県立大学大学院人間福祉学研究科 特任教授)に「子ども虐待に関する研究の到達点と今後の課題(3)~虐待が子どもの自己(self)に与える影響の理解と支援」と題してお話しいただきました。この記事では、研修会の内容や様子をお伝えします。
冒頭で西澤先生は、虐待、特にネグレクトを受けた子どもたちに「自分」がない事例が見られることから、虐待と自己形成の関連に気づいたと話されました。
研修会の中心となるお話は、「自己をめぐる理論」でした。まず、赤ちゃんの自己状態の統合について説明がありました。赤ちゃんは、ぐずったり、笑ったり、寝たり、自己の状態が目まぐるしく不連続に変化する状態ですが、親に受け止められることにより、自己の状態が統合されていきます。赤ちゃんは自分が笑っているときに自分が笑っていることを理解していないものの、親が笑っている反応(照らし返し)を通して自分が笑っていることを認識していくという仮説があります。ネグレクト環境では照らし返しによる自己認知がないため、赤ちゃんが笑ったり泣いたりしないという状況が見られます。
不連続だった自己状態は幼児期~子ども期で緩やかに集合し、思春期~成年期に「統合された自己状態」になると言われています。統合の過程で子どもは、他者(Object)と関わることによって自己(self)に気づきます。中でも要となるのは「アタッチメント(愛着)対象との関係」で、子どもにとっては親が特に重要なアタッチメント対象になります。虐待やネグレクトを経験した子どもは、アタッチメント対象との関係で形成される自己がなく、相手や場面によってバラバラな自己を見せることがあるそうです。
最後に西澤先生は、これからの課題として「自己を育む支援」について話されました。西澤先生は虐待やネグレクトを経験した子どもたちに対して、アタッチメント対象(安心感を与える存在)となることを試行されているそうです。その子どもと個人的関係を持ち、共感し、自分にとってその子どもがどのような存在かを伝えていくことで、その関係性において子どもは自己を育みます。こうした試行の効果を、今後検証していかれるとのことでした。
今回の研修会は、98名の方々に参加していただきました。SMBC京大スタジオでは、今後も定期的に「『生きる』教育」研修会を開催する予定です。関心を持たれた方はぜひ、イベント情報をチェックしてみてください。