台湾身じまい調査レポート① 調査の概要

少子高齢化

 2024年11月21日から23日にかけて、「誰もが生前・死後の尊厳を保つための持続可能な身じまい・意思決定とその支援」のプロジェクトで台湾調査を行いました。この記事では、調査の概要をお伝えします。

調査の目的

 台湾は、高齢期の身じまい(生活の面倒を見ることや亡くなった後の弔いなど)を家族が支える文化が根強いとされています。また、ボランティア活動も盛んです。日本と同様に高齢化が進む中、どのように身じまいを支えているのかを調査することで、日本の社会のあり方への示唆を得ることが期待できます。また、意思決定の観点では、台湾で2016年に設立され2019年から施行されている法律である患者自主権利法(*1)が注目されます。この法律は延命治療の差し控えや中止の判断について患者本人の意思決定を重視するもので、東アジアでは数少ない、患者の自己決定権を明確に確立した法律と言われています。

 台湾の制度や文化について、取り組みが進んでいる医療分野を中心に調査し日本と比較することで、日本の今後の社会のあり方への示唆を得ることを目標としました。

(*1)台湾「患者自主権利法」の翻訳はこちら(京都大学のホームページに移行します)

訪問先と調査内容

11月21日

国立台湾大学病院 倫理センター(The NTUH Ethics Center)(*2)

 倫理センターは2024年に設立され、研究倫理、臨床倫理、研究公正の三部門に分かれて、医学や科学技術の発展に由来する倫理的・法的・社会的な課題を研究しています。倫理センターに属する研究者や医師、ソーシャルワーカーといった方々と、終末期医療、緩和ケア、治療中止などについて意見交換を行いました。

(*2)詳細はこちら(倫理センターのホームページに移行します)

台湾大学病院。
倫理センターは大学病院の敷地内にあります

11月22日

仏教慈済基金会

 仏教慈済基金会(以下「慈済会」)は1966年に花蓮市で設立された仏教系のNGO団体です。恵まれない人々を救済するための慈善事業や災害後の被災者に対する災害支援などを行っています。ボランティアの方から、慈済会の活動や歴史について紹介していただきました。

仏教慈済基金会の建物。
中は広く、展示スペースや聖堂があります
隣接した敷地内に病院や大学がありました

仏教慈済総合病院

 仏教慈済総合病院は慈済会が運営する病院です。緩和ケア病棟の様子や台湾におけるACP(アドバンス・ケア・プランニング)(*3)の発展について調査しました。

(*3)ACP(アドバンス・ケア・プランニング):将来の医療やケアについての方針を、本人が家族や医療者などと話し合うこと。

仏教慈済大学 宗教と人文研究所

 仏教慈済大学は慈済会が運営する大学です。宗教と人文研究所の研究者より、台湾における意思決定の法律や埋葬習慣の変化、また仏教慈済大学病院への献体(*4)について説明していただきました。台湾と日本との比較を中心に、ディスカッションを行いました。

(*4)献体:死後に遺体を解剖学の実習やサージカル・トレーニング用の教材として提供すること。

11月23日

台北市立総合病院

 台北市立総合病院は台北市にある大規模な公立病院です。台湾および台北市立総合病院におけるACPについてお話を伺いました。2022年以降、台湾では患者の治療方針に対する意思表示がデータ化・共有され、終末期の意思決定が支えられています。具体的な仕組みや国民への普及について調査しました。

台北市立総合病院。市街地の近くに位置しています

行一診所

 行一診所は台北市内にあるホームケアの施設で、慢性疾患を抱える終末期患者の在宅医療を支えています。末期患者が「よい死」を迎えるための対応をはじめ、施設の取り組みを紹介していただきました。

栄民総病院

 栄民総病院は、台北市にある栄民向けの国立病院です。栄民とは、1949年に中国共産党との内戦に敗れて国民党とともに台湾に来た退役軍人のことで、台湾では栄民に向けた医療・介護サービスが一般向けとは別に設けられています。栄民の事情を中心に、台湾で身寄りのない高齢者を支える仕組みについてお聞きしました。

栄民総病院。大きな病棟と研究所が隣接しています

 次回からは、児玉先生と沢村研究員が各訪問先での調査からの学びや得られた示唆について、対談記事を掲載します。

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