台湾身じまい調査レポート② 調査での学び・前編

少子高齢化

 2024年11月21日から23日にかけて、「誰もが生前・死後の尊厳を保つための持続可能な身じまい・意思決定とその支援」のプロジェクトで台湾調査を行いました。調査を行った京都大学/児玉先生と日本総研/沢村研究員にインタビューし、二人が調査で得た学びや気づきを3回にわたってお伝えします。

―台湾調査おつかれさまでした。それぞれの往訪先で、お二人が得られた学びや気づきをお伺いしていきたいと思います。

国立台湾大学病院

―まずは11月21日の国立台湾大学病院についてです。倫理センターでの意見交換のテーマが終末期医療や緩和ケアということで、児玉先生のご専門に近い内容だったと思いますが、児玉先生、いかがでしたか。

(児玉)意見交換の中で話題になったキーワードのひとつが、「VSED」(voluntary stopping eating and drinking:自発的飲食中止)でした。台湾は安楽死が許されていないので、合法的に生命を絶つ方法として、栄養と水分を摂らないという選択をする人が出てきているそうです。VSEDを「よい死に方」と捉える価値観も広がっているとのことでした。意見交換をした中で、ある先生がVSEDの相談が週1回ペースで来るとおっしゃっていて、日本との違いを感じました。

―日本ではVSEDはあまり見られないんでしょうか。

(児玉)全くないわけでないようですが、少なくとも大学病院レベルではまだほとんど問題になっていないと思います。台湾以外の国々でも、安楽死は非合法・VSEDは合法と捉えることの是非が議論になっています。

―沢村さんはいかがでしたか。

(沢村)私は、身寄りがない高齢者の対応について、ソーシャルワーカーの方から伺ったお話が印象的でした。台湾では、身寄りがない高齢者がひとりで生活を継続することが難しくなってくると、警察に頼んででもなんとか家族・親族を探し出しているということでした。日本と同じく台湾でも、高齢期に家族・親族に頼る文化が根強いことが分かりました。

(児玉)「身寄りなし」という場合は、本当に家族がいないことを証明しなければならないという話もありましたね。家族がいるとその家族に意思決定をしてもらわないという法律の建付けになっており、例えば海外に家族がいてなかなか連絡が取れないときに意思決定が止まってしまうという問題があるようです。

仏教慈済基金会

―11月22日は、世界有数の仏教NGOである仏教慈済基金会(以下「慈済会」)および関係施設の訪問でした。全体を通じて、感じたことを教えてください。

(児玉)慈済会では現在、教育・医療・文化・奉仕を総合的にカバーして活動しています。現地のボランティアの方から慈済会について紹介していただき理解が深まりました。花蓮地方で宗教ベースの団体として始まった民間の共助の仕組みが、政府の公助の仕組みと共存し、台湾全体にネットワークを形成しながら現在まで残っているのがすごいと思いました。

(沢村)私は、慈済会に関わる方々の価値観に関心を持ちました。慈済会の災害支援は国外に対しても積極的に行っており、2024年に日本で発生した能登半島地震では、発生2日後に現地入りして支援を行ったそうです。こうした慈済会の活動は基本的にボランティアで行われており、現地に駆けつけるのも自費だという話がありました。日本とは社会参加の意識がそもそも違うのかもしれませんね。

仏教慈済総合病院

―仏教慈済総合病院では、緩和ケア病棟でACP(アドバンス・ケア・プランニング)(*1)について調査されたということで、お話を伺って印象に残ったことはありますか。

(沢村)緩和ケアの専門家から「コンパッション・コミュニティ」(Compassionate Communities)のお話がありました。台湾では、老いや病気、死などの苦難に直面する市民を市民同士で支え合う地域社会づくりが推進されているそうです。身じまいを地域全体で支えていく動きがあることは勉強になりました。

(児玉)コンパッション・コミュニティは、アメリカで始まったんですよね。もともとは集団の健康の増進を目的とする公衆衛生的な発想で、町全体で緩和ケアを進めていくことを考えているようです。今回仏教慈済総合病院で伺ったお話は、緩和ケアに限らず高齢者や認知症の方にフレンドリーな社会を作ろうという発想で、個人的にはとてもよいと思いました。

仏教慈済総合病院での意見交換の様子

(*1)ACP(アドバンス・ケア・プランニング):将来の医療やケアについての方針を、本人を中心に家族や医療者などが話し合うこと。

仏教慈済大学

―仏教慈済大学では、宗教と人文研究所の研究者との意見交換をされて、気づきはありましたか。

(児玉)献体の話が興味深かったです。仏教慈済大学は、献体(*2)が有名だと聞いていたのですが、現在約4万人が死後の献体登録をしているというお話もあり、想像以上に発達していました。なかなか日本ではないものだと思いました。これもボランティア精神や宗教の力が関係しているんでしょうね。

(沢村)台湾における葬儀の変化も勉強になりました。土葬から火葬、そして今は自然葬を希望する人が増えており、文化がどんどん変わっているようでした。自然葬を希望する方は、台北市が提供するシステムでその意向を登録するそうです。そういった仕組みは、日本の仕組みづくりを考えるにあたって参考になります。

献体について質問をされる児玉先生

(*2)献体:死後に遺体を解剖学の実習用の教材として提供すること。慈済大学ではサージカル・トレーニング用にも献体を使用している。

 次の中編では、11月23日に訪問した台北市立総合病院、行一診所、栄民総病院で得られた学びをお伝えします。

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