台湾身じまい調査レポート③ 調査での学び・中編

少子高齢化

 2024年11月21日から23日にかけて、「誰もが生前・死後の尊厳を保つための持続可能な身じまい・意思決定とその支援」のプロジェクトで台湾調査を行いました。調査を行った児玉先生と沢村研究員にインタビューし、おふたりが調査で得た学びや気づきを3回にわたってお伝えします。

 インタビューの前編はこちらの記事をご覧ください。

台北市立総合病院

―11月23日、児玉先生と沢村さんはそれぞれ別の機関に往訪されたんですよね。まずは児玉先生、台北市立総合病院に行かれていかがでしたか。

(児玉)沢村さんから葬儀の意向を登録するシステムのお話がありましたが、台北市立総合病院でも、患者の診療データを登録するシステムのお話を伺いました。台湾では病院で治療を受けた記録が公的なデータとしてクラウドに保存され、患者は保険証があれば、また医師は自身のIDカードと患者の保険証があれば、いつでもウェブ上でデータを参照できます。治療方針などの意思決定も、病院のコンサルテーションを経て患者が作成した事前指示書がデータ化され、保存されます。とても効率的ですよね。
 また、台北市立総合病院では、独自のパンフレットやすごろくを作り、ACP(*1)のプロモーションを行っているそうです。ACPの前後で死に対する理解度を調査する「Death Literacy Index」があることも伺いました。

台湾市民病院での意見交換の様子
台湾市民病院で作成しているすごろく

(沢村)すごろくなどのゲームは、日本でも開発されています。ゲームにして身じまいに関することを話しやすくするという工夫ですよね。参加に積極的な人とそうでない人がいると思うので、それぞれの違いは気になります。

(児玉)台北市立総合病院では、「アドバンス・トータル・プランニング」(Advance Total Planning)の話が一番面白かったです。医療だけではなくて、フィナンシャルなものも含めてやっていかないといけないという話です。私たちがこのプロジェクトで考えている身じまいに近い概念ですね。日本と同じような課題を抱えているのではないかと思います。

(*1)ACP(アドバンス・ケア・プランニング):将来の医療やケアについての方針を、本人が家族や医療者などと話し合うこと。

行一診所

―続いて児玉先生が訪問された行一診所は、終末期患者の在宅医療を支える施設です。どのようなお話があったんでしょうか。

(児玉)行一診所では終末期医療のお話を伺ったのですが、国立台湾大学病院で話題になった「VSED」(*2)のお話が出てきました。VSEDを実践して亡くなった男性の話が「勇気のあるおじいちゃん」として紹介されており、VSEDを立派な死に方と捉える価値観もあることを改めて感じました。

(*2)VSED:「voluntary stopping eating and drinking」の略で、自発的に飲食を中止すること。

栄民総病院

―沢村さんは栄民総病院で栄民(*3)の身じまい問題や、身寄りなし高齢者の問題について調査されたんですよね。いかがでしたか。

(沢村)まず栄民の方々の身じまいは、あまり困っていないように見受けられました。栄民は家族がいない状態で台湾に移住してきているので、もともと家族を前提とせずに制度や仕組みが整えられています。栄民向けの高齢者施設やサポートサービスがありますし、栄民の場合は医師が医療上の意思決定をしてもよいという規定があるそうです。日本と状況が大きく異なるため単純に並べられる話ではないですが、制度や仕組みがあれば困らないかもしれないというのは示唆的でした。身寄りのない高齢者対応には孤独や困窮といった課題もありますが、少なくとも手続き面でいくと、いくつかの割り切りと地域の手当てがあれば乗り切れる問題とも捉えられるのだと思いました。

―栄民は特別な位置づけなんですね。栄民以外の方々は、様子が違うのでしょうか。

(沢村)栄民総病院ももともとは栄民向けの病院ですが、今は一般患者も受け入れる高度医療センターとなっており、身寄りのない高齢者を受け入れることも多いそうです。
 台湾では、身寄りのない高齢者は地域の力で支えているというお話を伺いました。近所の方が通院に付き添ったり、病院からの電話に出ない高齢者の様子を見に行ったりと、病院とも連携しながらサポートする体制になっているそうです。特に役割が大きいのは日本でいう町内会長にあたる立場の方で、その地区の身寄りのない高齢者や老老介護の世帯を把握し、関係機関と連携して支えているということです。

栄民総病院での意見交換の様子

(*3)栄民:1949年に中国共産党との内戦に敗れて国民党とともに台湾に来た退役軍人のこと。

 次の後編では、3日間の調査を通じておふたりが考えたことや得られた示唆をお伝えします。

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