2025年3月22日(土)に「貧困・格差・虐待の連鎖を乗り越える教育アプローチの研究開発と普及」プロジェクトの第4回「『生きる』教育」研修会を開催しました。
今回の研修会では、田島南小中一貫校の先生方によるワークショップと、ライフストーリーワークの重要性と進め方についての講演が行われました。この記事では、研修会の内容や様子をお伝えします。
オープニング
はじめに、プロジェクト代表の西岡加名恵先生より、「『生きる』教育」の概要とSMBC京大スタジオでのプロジェクトについてお話いただきました。
ワークショップ①:「みんなむかしは赤ちゃんだった」
田島南小中一貫校の別所美佐子先生、田中梓先生より、「みんなむかしは赤ちゃんだった」の授業を学ぶワークショップをしていただきました。田島南小中一貫校では、小学校2年生を対象に行われているプログラムです。
授業は「パーソナル・スペース」の学習から始まり、子どもたちは人との適切な距離感を学びます。その後「0cmの距離」として赤ちゃんと母親に目を向けるように導入し、赤ちゃんが生まれるまで、そして生まれてから成長する過程を伝えていきます。実際の授業は、人間と動物の赤ちゃんの比較や妊婦体験など、子どもたちを惹きつける工夫を散りばめて複数回にわたって展開されています。別所先生には、授業での子どもたちの様子も交えてお話しいただきました。

赤ちゃんの成長過程を学ぶ授業では、生後1年間をいくつかの期間に分け、それぞれの時期で赤ちゃんができるようになることを考えます。研修会では、授業で子どもたちが実際に行っているワークを参加者が体験しました。赤ちゃんができること、例えば「ねがえり」、「つかまりだち」などが書かれたカードを使い、できるようになる順番や時期などをグループで話し合いました(*1)。
(*1)このワークの実施にあたっては、鈴木まもる様と小峰書店様のご了解を得て、絵本『みんなあかちゃんだった』(2008年)の画像を使わせていただきました。ここに記して感謝申し上げます。

このプログラムで子どもたちは、生まれたばかりの赤ちゃんはいろいろな人のお世話とたくさんの「抱っこ」があって育つことを学びます。別所先生からは、自分自身も周りに大切に守られて育ってきたことを子どもに伝えたいという思いを語っていただきました。
講演:ライフストーリーワークの重要性と進め方
元 帝塚山大学心理福祉学部教授の才村眞理先生より、ライフストーリーワークについて講演していただきました。

才村先生によれば、ライフストーリーワークとは「誰から生まれたのか? なぜ今ここにいるのか? これからどうなるの? などを子どもの人生に組み入れられるよう、話し合いの場を提供する作業(プロセス)」のことです(才村先生ご講演資料より)。
才村先生は、施設や里親宅などで親と離れて暮らす子どもたちに対して、ライフストーリーワークを実践してこられました。ライフストーリーワークを行うことで子どもたちは、自身の生い立ちや家族と離れて暮らしている理由を理解し、現在の状況に納得することができます。そして自己肯定感が高まり、未来について考えられるようになっていきます。
才村先生はご講演の中にワークも組み込み、参加者がライフストーリーワークを知識としても感覚としても理解できるように進めてくださいました。
ワークショップ②:「10歳のハローワーク」
ワークショップ①に引き続き、別所先生、田中先生より、小学校4年生で実践されている「10歳のハローワーク」のワークショップをしていただきました。「『生きる』教育」にライフストーリーワークの視点を取り入れたプログラムで、子どもたちが現在・過去・未来の自分に向き合う内容になっています。
授業ではまず、世の中には様々な仕事があること、仕事に就くために「履歴書」が必要なことを伝えていきます。子どもたちに「履歴書」として、自分の現在までの履歴や強み、今悩んでいることなどを書いてもらいます。この時、先生方は「書きたくないことは書かなくていいよ」と伝え、過去にトラウマがある子どもたちに寄り添う工夫をしているそうです。その後ペアを作って履歴書の内容を話す「面談」をし、悩みに対してお互いにメッセージを書くという授業展開になっています。今回の研修会でも、参加者が履歴書作成と面談を体験しました。
未来の自分を描くための授業では、「ほしい力」のオークションを行います。オークションにかけられるのは、「自分の意見を言う力」「ルールを守れる力」など未来の自分に役立つと思われる力です。子どもたちにはひとり10枚のチップが配られ、未来の自分のために身につけたい力を最大3つまで入札できます。入札したチップの数が最も多い人がその力を手に入れられ、その理由も発表することになっています。研修会でも、参加者が実際にオークションに取り組み、大いに盛り上がりました。

最後には、先生方が向き合ってこられた子どもたちのエピソードや、このプログラムを作り上げてきた先生方の想いを共有いただきました。
今回の研修会には50人近くの方にご参加いただき、最後まで熱気あふれる会になりました。今後も、SMBC京大スタジオのプロジェクトの一環として「『生きる』教育」研修会を開催する予定です。関心を持たれた方はぜひ、イベント情報をチェックしてみてください。