幸せな「人生のしまい方」って?
②キャッチコピーができるまで

少子高齢化

 「誰もが生前・死後の尊厳を保つための持続可能な身じまい・意思決定とその支援」のプロジェクトでは、『幸せな「人生のしまい方」って?』をキャッチコピーとしています。キャッチコピーをつくってくださったコピーライターの原田朋さんをお招きし、プロジェクト代表者2名とともにキャッチコピーができた経緯や思いを語っていただきました。

―本日は、プロジェクト代表者の児玉先生、沢村さんと、ゲストとしてコピーライターの原田さんにお越しいただいています。初めに原田さんから自己紹介をお願いします。

(原田)クリエイティブディレクター、コピーライターの原田 朋(はらだ ともき)と申します。私は長年広告代理店でキャッチコピーやテレビCMを作ってきて、今はフリーランスでお仕事をしています。大学時代に「人と人が分かり合えるって何だろう?」という関心から、倫理学を学びました。企業の広告・広報を仕事とする中で、企業と生活者、企業と社会の価値観の違いについて考えたことで、再び倫理学への関心を深め、2022年に京都大学で開催された「宇宙倫理学教育プログラム」を受講しました。そこで児玉先生とお知り合いになったご縁で、今回このプロジェクトの言葉づくりをお手伝いさせていただくことになりました。

―児玉先生からご相談した際に、原田さんはこのプロジェクトの内容に関心を持ってくださったと伺っています。どういったところに関心を持ってくださったのでしょうか。

(原田)私は今、京都の西本願寺のクリエイティブディレクターをしています。お寺の仕事をする中で「人間は死を前にしてどのように自分を考えるか」をよく考えていて、プロジェクトのテーマが自分の日頃の仕事と一致したことがひとつです。また、死も、死に向かうことも、とても難しいテーマだと思います。この難しいテーマをできるだけ分かりやすく社会に伝えたい、多くの人に話題にして考えてほしい、という児玉先生のお話を伺って、重要なプロジェクトだと思いました。

―キャッチコピーを作ることは、児玉先生から提案いただいたんですよね。

(児玉)はい。私は以前別のプロジェクトでロゴや愛称を作ったことがあって、プロジェクトのアイデンティティを考える上でこうした活動は重要だと思っていたんです。SMBC京大スタジオのプロジェクトでも、プロジェクトを簡潔に表すような名称づくりをなるべく早くしたいと思って原田さんにお声がけしました。

(沢村)プロジェクトのキャッチコピーを作るという経験は私自身初めてで、こういうアプローチもあるんだと学びになりました。私は身じまいやおひとりさま高齢者の課題をずっと追ってきたんですが、社会に発信したいと思うものの伝えたいことがありすぎて、なかなか上手く伝えられず悩んでいました。原田さんは私たちの話を聞いてあっという間に要点をまとめてくださって、コピーライターさんってすごいなと思いました。普段自分が考えていること、悩んでいることを、違う角度から掴まれたような感覚でしたね。

―キャッチコピーについて、原田さんがポイントだと思っておられる点はどこですか。

(原田)3つほどポイントがあるかなと思います。
 コピーライターとしては、言葉を考えるときに「世の中の多くの人は、どういう単語を使ってこの話をするんだろう」と考えます。このプロジェクトでは「死」に向かい合うことがテーマになっています。「死」という単語には独特の抵抗感があると思うんですね。言いにくい単語だとどうしても話ができない。ではどういう言い方をしたら話せるようになるかと考えて、たどり着いたのが「しまい方」という言葉でした。こうして「死」を言い換えたことが1つ目のポイントです。
 2つ目は、プロジェクト名に入っていた「誰もが生前死後の尊厳を保つための持続可能な」をどうお伝えするかということです。難しい言葉ですが、これは簡潔に言うと「よい」ということだと捉えました。人生の終わりには、よいも何もなく、全てが終わってしまうというイメージを持っている方が多いと思います。ここに「幸せな」という言葉をくっつけるとギャップが生まれて、人を惹きつけるコピーになるのではないかと思いました。
 3つ目は、プロジェクトのポイントでもありますが、こちらから正解を決めないで「って?」という疑問の形で終わることです。『幸せな「人生のしまい方」』ではなく、『幸せな「人生のしまい方」って?』とすることにより、記事を読む方、イベントに参加される方など、このプロジェクトに関わる方々に自分はどうだろうかと考えてもらいたい。そんな思いを込めました。

(沢村)キャッチコピーで使われているのはいずれもありふれた言葉ではあるんですが、いい選択だと思っています。このテーマで「豊かな」って言葉が使われているのを聞いて、しっくりこないなと思ったことがあるんです。「豊かな」があると反対に「貧しい」が出てきてしまうからだと思うんですが、ある人の人生や亡くなり方を、本人以外が豊かだ、豊かでない、と言うことには違和感がありました。でも「幸せ」は主観的で、誰かが決めることでもないので、腑に落ちたんだと思います。

(原田)誰かが決めることではないというところが大事だったのかもしれませんね。「あなたの幸せがあるのでは?」という投げかけが大事だったのかもしれない。

(児玉)このプロジェクトは、人生のしまい方を模索しながら、一緒に考えるムーブメントをつくろうということを目標に掲げています。それも勘案して問いかけにしていただき、大変よいキャッチコピーになったと思います。

この後の3人の会話をyoutubeで配信しています。ご関心のある方はこちらもご覧ください。
言葉持つ力とは

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