2025年8月2日(土)、3日(日)に「貧困・格差・虐待の連鎖を乗り越える教育アプローチの研究開発と普及」プロジェクトの第5回「『生きる』教育」研修会を開催しました。
この記事では、研修会の内容や様子をお伝えします。
1日目
オープニング
はじめに、プロジェクト代表の西岡加名恵先生より、「『生きる』教育」の概要とSMBC京大スタジオでのプロジェクトについてお話しいただきました。
講演①:虐待を受けた子どもの心
国際医療福祉大学赤坂心理・医療福祉マネジメント学部教授の橋本和明先生より、虐待が子どもに及ぼす影響について講演していただきました。
虐待のような辛い経験は、トラウマ体験として子どもの中に残ります。トラウマとは、危うく死にそうになる、重症を負うといった「死に近い体験」による心の傷を指します。トラウマを受けると、感情のコントロールができなくなったり、逆に感情が麻痺してしまったりすることがあります。
近年、虐待と非行の関係も注目されています。虐待を受けている子どもが虐待から逃れるため、また救助サインを出すための行動が非行に繋がる場合があります。橋本先生からは、子どもたちの支援を行う立場にいる方々に向けて、非行の裏にあるメカニズムを読んで支援にあたってもらいたいとのメッセージがありました。

講演②:傷ついた子どもの声の聴き方
橋本先生からは、つらい経験をした子どもたちへのアプローチについてもお話しいただきました。橋本先生ご自身も、傷ついた子どもたちの支援にあたっておられます。子どもたちの痛みをおもんばかり、相手に土足で踏み込まないようにしながら事実を追求するという姿勢の重要性を語っていただきました。
田島南小中一貫校で行われている「『生きる』教育」には子どもたちのトラウマに触れうる内容も含まれているため、先生方は細心の注意を払って授業をされています。橋本先生は、「子どもたちが持つ”パンドラの箱”を開くかもしれないけれど、それでも覚悟を持って授業をすることが必要。覚悟を持つために、知識を身につけたり試行錯誤したりすることが重要ではないか」とお話してくださいました。
ワークショップ①:「たいせつなこころと体」
田島南小中一貫校の別所美佐子先生、田中梓先生より、小学校1年生で行っている授業のワークショップをしていただきました。この授業のテーマは「プライベートゾーン」です。
授業は、黒板に貼ったふたりの子どものイラストを見ながら危ないところ、直した方がよいところを見つけるところから始まります。怪我している、体が汚れている、服や靴がきちんと身につけられていないなどの問題点を対話の中で見つけていき、子どもたちに「安全」「安心」「清潔」の重要性を伝えます。

続いて、清潔を保つ方法を子どもたちに問いかけて「お風呂に入る」を引き出し、先生が黒板に貼った子どもから衣服をとろうとします。授業ではここで子どもたちから「だめ!」「恥ずかしい」といった声があがります。なぜ恥ずかしいのかを子どもたちと対話しながら、水着で隠れる場所がプライベートゾーンであることを伝えていきます。プライベートゾーンには「みない」「みせない」「さわらない」「さわらせない」という4つの約束があります。具体的な事例を見ながらプライベートゾーンの約束を確認し、嫌だと思ったら相手に伝えたり、誰かに相談したりすることの大切さを伝えます。
研修会のワークショップでは、参加者が小学校1年生の気持ちになりながら、別所先生、田中先生と対話しながら進めていきました。
2日目
ワークショップ②:「脳と心と体とわたし -思春期のトラウマとアタッチメント」
2日目は、田島中学校で1年生向けに行われている授業のワークショップから始まりました。1日目と同じく、講師は別所先生、田中先生です。
ワークショップの冒頭、「心ってどこにあると思いますか?」という田中先生の問いかけがありました。胸を指さす方も多い中で、田中先生は頭、つまり脳が感情や行動に大きく関わっていることを話されました。授業でも同様に子どもたちに問いかけて、脳の部位や働きを簡単に説明していきます。
授業の中で子どもたちは、頭を強く打つなどして怪我をした脳と健康な脳のMRI写真を見比べながら、脳が怪我をすると手足や言語など身体に影響が出ることを学びます。ここから、MRI写真では健康な脳と変わらないにも関わらず脳が怪我をしたような状態になるものとして、「トラウマ」の話に移ります。
ワークショップでは実際の授業と同様、子どもたちが経験しうるつらいことをトラウマか、そうでないかに分類するグループワークを行いました。つらいことには、例えば「お家の人から暴言や暴力をうける」「テストで悪い点をとってしまった」などがあります。グループの中でトラウマにあたると思う人とそうでない人に分かれるものもあり、同じような体験でもトラウマになるかどうかが人によって違うことも学んでいきます。また、トラウマではないがつらく感じられるものが「ストレス」と言われることを確認し、ストレスを乗り越えるためにできることをグループで話し合いました。授業のまとめとして「レジリエンス」と「安全基地」というキーワードが示され、困難を跳ね返す力を持つこと、周りの人に頼ることの重要性を学びました。

講演③:これからの生徒指導 『生徒指導提要』の目指す方向性
2日目の講演は、生徒指導を専門にされている兵庫県立大学環境人間学部教授の竹内和雄先生に講師をしていただきました。竹内先生は、2022年に改定された『生徒指導提要』の執筆者のお一人です。『生徒指導提要』は、生徒指導の理論や考え方、指導方法をまとめたもので、最初に作成されたのが2010年でした。それからの10年あまりで、子どもたちの生活は大きく変わっています。インターネットやスマートフォンの普及、いじめの定義の見直し、不登校率の上昇など様々な変化を受けて、『生徒指導提要指導』の内容も変化しました。竹内先生によると、2022年改定時の最も大きな変化は、教員主体の「指導」から子ども主体の「支援」への方向転換です。竹内先生は、ご自身の経験もふまえて支援の必要性を語ってくださいました。
講義全体を通じて竹内先生は、参加者同士の意見交換を大事にしながら進行されました。参加者は、お互いの意見や考えを聞きながら、現代の子どもたちの実態や価値観について学びを深めることができました。

質疑応答の時間には、「『生きる』教育」に関心があるもののなかなか実践できない先生が多い中で、学校の体制構築をどう進めていくかという議論がありました。竹内先生は、まず最初にするべきは「学校の中で3人、できれば6人仲間を作ること」だと語ってくださいました。
SMBC京大スタジオでは、今後もプロジェクトの一環として「『生きる』教育」研修会を開催する予定です。関心を持たれた方はぜひ、周りの方ともお誘いあわせの上、ご参加ください。