このコラムでは、「貧困・格差・虐待の連鎖を乗り越える教育アプローチの研究開発と普及」プロジェクト代表である日本総研/山本研究員の研究をお届けします。
「『生きる』教育」実践の壁
SMBC京大スタジオ「貧困・格差・虐待の連鎖を乗り越える教育アプローチの研究開発と普及」のプロジェクトでは、「子どもの貧困・格差・虐待」という社会課題に対して学校教育からアプローチします。そうしたアプローチの一例が、大阪市立生野南小学校(現・田島南小中一貫校)の「『生きる』教育」です。生野南小学校の先生方の生徒へ寄り添う愛情と尽力により学校の「荒れ」を克服し、「『生きる』教育」が作られ、実践されたことにより子どもたちの自己肯定感を高めることにつながっています。
「『生きる」教育』を開発した生野南小学校のほかに、組織ぐるみで実践している学校として大阪市立南市岡小学校があげられます。生野南小学校で管理職を務められた木村校長が、2022年に南市岡小学校に転任し、ゼロから「『生きる』教育」の実践をスタートしました。学内での協力者を得て学校全体に「『生きる』教育」を浸透させ、南市岡小学校独自のカリキュラムの開発も行われています。
SMBC京大スタジオのプロジェクト活動として春と夏に開催する「『生きる』教育」研修会には、「『生きる』教育」をこれから実践したいと考えている先生方が参加しています。そして、参加した先生方は担任をするクラスや受け持つ授業で、実践を行い始めています。いっぽう、学校ぐるみで9年分の体系立てられたカリキュラムを実践するに至っていません。それは、学校内での仲間づくりが必要となり、そこに困難さがあるからです。
壁を乗り越える伴走支援
「『生きる』教育」はベストプラクティスのひとつとして取り上げられ、メディアでも注目を集めています。しかし、学校教育に限らず、ビジネスの世界でもベストプラクティスを知ることで希望を感じることはできますが、それだけでは変化は生み出せません。所属する組織や職場で実践しようとすると、変化への抵抗や現状維持を望む障壁が立ちはだかります。そこで必要となるのが伴走支援です。私の研究では、「子どもの貧困・格差・虐待」という社会課題に対して学校教育からアプローチする際に、どのような環境や条件がそろっていればうまくいくのか?を明らかにしたいと考えています。
2025年6月より、研修会に参加された教員のみなさまに協力いただき、伴走支援を開始しました。
教員への伴走支援は、おおまかに3つに分類できます。
①有識者による教員・学校組織への専門的なアドバイス
教員個人や学校組織が抱える課題に対し、外部の専門家が寄り添い、解決に向けた具体的なアドバイスや仕組みづくりを支援するアプローチ。働き方改革やICT活用、業務改善、学力向上に向けた指導力強化などがこれに当たります。
②実践・研修を通じた教員個人の能力開発支援
教員が自らの授業や学校運営を改善できるよう、対話型の研修や共同実践を通じて、教員自身のスキルや自信を育むアプローチ。STEAM教育、探究学習の導入支援などが含まれます。
③学内のコミュニティ形成・学校外との連携支援
新たな取り組みを行いたい教員が孤立することなく、他の教員とつながり、互いに学び合える環境を構築するアプローチ。地域の市民や事業者との間をコーディネートし、学校と地域をつなぐ役割を担うなど、教員の活動を多角的に支援します。
「『生きる』教育」を学校内で浸透させていくためには、学校の状況にあわせ使い分けていく必要があります。現在は前述のように研修に参加し、すでに小さく活動を始めている教員がいる学校を対象とした伴走を行っています。その際には、カリキュラムの価値や効果を伝えること以上に、ひとりひとりの教員の思いや考えをくみ取り、それぞれの学校の目標・状況・課題を踏まえる必要があるため、②と③のハイブリッドな伴走が適切と考えています。
次回では、本研究にも協力いただく「楽しい学校コンサルタントsecond」代表の前田さんにお話を伺います。前田さんは13年の教員経験を活かし、2018年に伴走支援を軸にした会社を設立・運営しています。