韓国身じまい調査レポート④「最後まで自分らしく」を支えるソウル市立高齢者福祉施設

 2025年8月8日から12日にかけて、「誰もが生前・死後の尊厳を保つための持続可能な身じまい・意思決定とその支援」のプロジェクトで、高齢者の意思決定支援についての調査のため、韓国ソウルを訪問しました。調査の概要はこちらの記事をご覧ください。

 8月12日は、ソウル市立ノウォン(蘆原)高齢者総合福祉館を訪問しました。この記事では、立場研究員が同施設の概要や取り組みについてレポートします。

 本施設は、韓国初の高齢者総合福祉館として1989年に開館し、現在まで運営されている社会福祉施設です。「すべての人々の共存のためのシニア広場」を施設のミッションとし、地域高齢者へのケアを実現しています。

施設外観

 1日あたり約300名の高齢者が来館し、各種プログラムを利用しています。代表的な事業としては、デジタル・リテラシー教育、教養講座、館内新聞や放送などの発行を通じた社会への発信および人権教育などが挙げられます。

 また、健康支援の一環として、健康相談や基礎的な医療検診、メンタルヘルスケアを、直接または地域社会との連携を通じて提供しています。さらに日常生活の維持のため、社会との繋がりが希薄であったり、経済的に厳しい状況にある、または身体機能の低下などにより孤独死リスクの高い高齢者を対象に、訪問・電話による安全支援や、外出・食事・清掃など日常生活に関する訪問サービスを直接提供しており、希望する場合は就職活動や再就労の支援も行っています。

 この福祉館の特徴として、「ウェルダイイング」に関する特別な教育プログラムがあります。ウェルダイイングとは「良き死」や「尊厳のある死」という考え方で、韓国では死のあり方に関して「延命医療決定法」と呼ばれる法律が2018年に施行されるなど、ウェルダイイングが盛んに議論されています。この施設は韓国国内で初めて2006年から「死の準備学校」を実施し、ウェルダイイング教育を提供するとともに、事前指示(AD)の作成を支援しています。

 また、近年はスマート高齢者福祉施設の実現を目指し、「Newスマートシニアプレイス」を構築し、高齢者のデジタル・リテラシーやデジタル機器活用教育のための空間・教育環境を整備し、関連教育やデジタルに親和的な日常生活を支援しています。

Newスマートシニアプレイス

 最初に、「Newスマートシニアプレイス」というエリアを見学しました。こちらは、花札などのゲームを楽しめるデバイスによる認知機能の維持、VRやARを活用したデバイスによる運動促進、そしてこれらの活動を通じた利用者同士のコミュニケーション促進を目的としたエリアです。

動画撮影用のスタジオ

 また、YouTubeなどの動画投稿サイト向けのコンテンツ作りのセミナーも提供しており、利用者向けの動画撮影用のスタジオがあったのも印象的でした。

囲碁をプレイする利用者の方々

 こうしたスマートデバイスの他に、従来型のレジャー活動を行う設備も充実しています。続いて訪れたエリアには囲碁や習字、卓球といった活動を行う部屋が並んでおり、どの部屋もたくさんの利用者がいらっしゃいました。

 また、この施設は近隣の集合住宅を運営している会社の傘下にあるということもあり、集合住宅の住民の方々には昼食が無償で提供されています。私たちが訪問した際にも、多くの方が食事に来ていました。

フィットネスクラブ

 最後に、フィットネスクラブやカフェを見学しました。同じフロアには高齢期に関わる行政手続きの専門家がワンストップで相談に応じてくれるカウンター、ACPの相談コーナーなどもあり、サービスの手厚さに驚きました。

 どの利用者も笑顔で、見学している私たちに「この施設は世界一だよ!」とお話ししてくれる方もいらっしゃり、非常に満足されている様子がうかがえました。

 高齢者向けの施設というと「人生の終わりの場所」、「社会から離れた場所」というイメージもあるかもしれませんが、本施設は利用者の一人ひとりがその人らしく生きて社会と繋がり、またいずれ来る死について前向きに準備できるような施設であると感じました。

代表研究者から一言(沢村香苗)

 外には運動器具を備えた公園もありました。ご紹介した様々な機能を持つスぺ-スには、ソウル市やその他の法人などの資金がそれぞれ投入されているそうです。お昼時だったこともあるのか、どのスペースにもたくさん利用者がいらっしゃり、ごった返していました。

 この高齢者施設に所属しているソーシャルワーカーが、ボランティア的に周囲の高層住宅を分担して出向いていたり、精神科の病院から退院した方の支援をしていたりするらしく、地域の専門職の拠点ともなっていることがわかりました。

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