韓国身じまい調査レポート⑤官民連携における高齢者支援の可能性

少子高齢化

 2025年8月8日から12日にかけて、「誰もが生前・死後の尊厳を保つための持続可能な身じまい・意思決定とその支援」のプロジェクトで、高齢者の意思決定支援についての調査のため、韓国ソウルを訪問しました。調査の概要はこちらの記事をご覧ください。

 8月9日は、ソウル市内にあるソデムン(西大門)区の区議会を訪れました。ソデムン区の区議とマポ(麻浦)区の区議、韓国南東部にあるウルサン(蔚山)を中心に活動している社会起業家からお話を伺い、高齢者支援に関するディスカッションを行いました。竜石堂研究員がレポートします。

統合ケア支援法とパイロット事業

 韓国では、2024年に成立した「医療・ケア統合支援に関する法律」(統合ケア支援法)が2026年から施行される予定です。総合ケア支援法は、高齢者人口の増加を背景として、高齢になっても住んでいる場所で健康で尊厳ある生活ができるように支援するための法律として制定されました。日本の地域包括ケアシステムを参考にして作られた法律です。日本の地域包括ケアシステムは主に高齢者を念頭に置いたものですが、韓国の統合ケア支援法は高齢者だけでなく、障がいや病気、事故などで日常生活に困難を抱える人々も対象としており、生活の質の向上や、住民を中心としたケアの提供を目指しています。

ソデムン区の取り組み

 ソデムン区では、総合ケア支援法の施行に先立ち、ソウル市の予算を活用してパイロット事業を運営しています。具体的には、必要な人にケアを提供するためのコアインフラとして、区役所に統合ケア支援センターを設置しています。同センターは住民からの相談にワンストップで対応するだけでなく、自治体と福祉施設や病院などとの連携体制も構築しています。他にも、病院から退院した高齢者が安心して帰宅できるよう、民間の救急車を利用する仕組みを整えるといった取り組みを実施しています。

 現在は、効率よくサービスを提供するため、高齢者に拠点に訪れてもらうことで支援を展開しています。今後は住んでいる場所でケアを提供する体制を実装していきたいとのことです。また、財団、福祉施設、社会福祉協議会などの自治体の協力機関だけでなく、民間企業とも広く連携していく必要性を感じているとのことでした。

マポ区の取り組み

 マポ区もソデムン区と同様、パイロット事業を行っています。マポ区は民間企業との連携が特徴といえます。マポ区では統合ケア基本法の施行に向け、官民での懇談会を開催し、議論を行っています。また、高齢者向け住宅における高齢者と地域の方との交流が生まれやすい空間づくりや、無料の食事の場を通じた高齢者の見守りなどを行っており、これらは民間企業からの後援を受けた社会福祉財団が支援することで成り立っているとのことです。

 また、マポ区には協同組合を中心とした民間ネットワークがあり、民間企業と連携することで、日常生活や介護、長期療養に至るまで様々な場面で必要なサービスを受けることができます。この取組は、高齢者だけでなく、全ての住民が対象となっており、経済的困窮層向けの事業や、中年一人暮らしの方向けの健康管理支援なども行っているそうです。

高齢者の健康に向けた社会的協同組合による取り組み

 ヒアリングの場には、メッセージファクトリー協同組合を立ち上げた方も同席されました。この協同組合は、ウルサン(蔚山)で地域の社会課題解決を目指す活動をされています。高齢者を対象とした活動も多く、例えば本人が希望するお葬式を生前に体験するイベントや、認知症患者や家族が日帰りで地域を旅行するプログラムを提供しています。また、一人一枚健康管理に関する活動カードを引き、そのカードに書かれた内容を実施するというゲームを開発し、人々の健康習慣作りを助ける仕掛けを作っています。人々が本来持つやりたいことや能力をメッセージと捉え、それを住民同士楽しみながらコミュニケーションできるよう、様々な企画を考えているとのことです。

官民連携による身じまいの支援とは

 地域で高齢者の身じまいや意思決定を支援するためのポイントについてディスカッションを行いました。韓国では、「統合ケア支援法」の施行に向け、官主導で準備が進められている段階にあります。ソデムン区の区議からは、韓国では意思決定支援に関する議論は始まったばかりで、在宅での老後や看取りが進んでいないこと、政策に当事者のニーズが反映されていないことが課題とのお話がありました。一方で、民間との連携を進めるマポ区のような事例や、地域のコミュニケーションを促進するウルサンの協同組合のような事例も見られており、今後の韓国での官民連携や住民を中心としたケアの可能性が感じられる場となりました。

代表研究者から一言(沢村 香苗)

 2024年の韓国の高齢化率は約20%と、まだ日本より低いですが、今後急速に進展することが予想されています。高齢者が地域で暮らし続けるための基盤整備を、地域がそれぞれの方法で行い始めたところです。キムチを皆で漬ける習慣を活かすことや、高齢者のための場所の設置など、暮らしの場でケアができるような形が模索されていました。日本の地域包括ケアの成功した部分、長期的には難しくなってきている部分などが参考になればよいなと思いました。

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