少子化と高齢化で日本の人口が減りつつある中、私たちの身近な場所で労働力として大きな役割を担っているのが海外出身の人たちです。コンビニや建設現場で様々な国の出身者を見かけることも珍しくなくなってきました。では、外国人労働者を受け入れる体制は整えられてきたのでしょうか。「海外人材の送り出し・受け入れ制度と非正規化〜社会的費用と制度的課題〜」プロジェクトを率いる京都大学大学院文学研究科の安里和晃先生に話を聞きました。

なぜ「非正規」が生み出されるのか
日本は人口減少社会に入り、どのようにして社会を維持していくかが大きな課題になっています。みんなが支え合わないと維持できないことは明らかだと思いますが、現状はどうでしょうか。
経済的な要請もあり、女性の社会進出はだんだん進んできました。でも海外から来た人たちのインクルージョンについては逆風が吹いているように感じます。出入国在留管理庁は2025年、「ルールを守らない外国人に係る報道がなされるなど国民の間に不安が高まっている状況」への対応策として『国民の安全・安心のための不法滞在者ゼロプラン』を発表しました。
人口減の局面においてより多くの人たちに活躍してもらうことが求められているにもかかわらず、実際にはそれを妨げる動きさえあるのではないかという課題意識を持っています。日本社会の中で、なぜ「非正規」と呼ばれる立場の外国人が生まれてしまうのか。その背景には制度そのものの問題があります。今回のプロジェクトでは「非正規滞在」と呼ばれる外国人に焦点を当て、なぜ非正規が生み出されてきたのかという社会構造を明らかにしたいと考えています。
枠組みの厳しさが合法的に「非合法者」を生んでいる?
2024年時点で、不法残留者数、外国人技能実習生の失踪者数、刑法犯検挙者数のどれを見てもベトナム人の割合が1位です(*1)。「技能実習生として来日したベトナム人が匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)に関わって逮捕された」などの報道に触れたことがある人も多いのではないかと思います。もちろん、これは一部の事例であり、多くの技能実習生が誠実に働いていることは言うまでもありませんが、若者や不安定就業者と同様、外国人労働者は犯罪の実行役・加担者として狙われやすい立場にあります。
では、なぜこのような状況が生まれたのでしょうか。
ベトナムから技能実習制度で来日する場合、送り出し機関への斡旋費用や仲介業者への支払いなどで多額の借金を抱えていることが一般的です。ベトナム人が「高収入を得られる」と聞いて借金をして来日したのに予想していたほど稼げず、しかも過酷な環境で働かされるという例はとても多いです。私が関わった事例では、青森の建設現場で働いていた技能実習生が、冬は足場が凍るのに安全装置なしで高所作業をさせられたり、受け入れ先の日本人に暴言を浴びせられたりしていました。
それでも技能実習生は原則として転職が認められていないので我慢して働き続けるしかありません。職を変えた場合、実態としては「転職」でも、入管法上は「失踪者」「容疑者」とされてしまいます。
このように、外国人技能実習生をめぐる制度の枠組みが厳しいあまり、結果として非正規滞在に追い込まれる人々がおのずと生み出されているという側面もあるのではないかと思います。こうした問題の原因を個人にのみ帰するのではなく、背後にある構造の問題として捉えることもできるのではないでしょうか。
実は、技能実習制度ではなく経済連携協定(EPA)を利用して来日したベトナム人の介護福祉士国家試験合格率は約90%です。これは日本人受験者の合格率を超える高さです(*2)。EPAを利用すると、国の支援を受けて日本語をしっかり勉強した上で借金をせずに来日することができます。良い制度のもとで来日したベトナム人の失踪はほぼ皆無で、受け入れ施設からも高評価を得ているのです。
(*1)不法残留者数は法務省「本邦における不法残留者数について」、外国人技能実習生の失踪者数は法務省「技能実習生の失踪者数の推移」、刑法犯検挙者数は警察庁「組織犯罪の情勢」より。
(*2)厚生労働省「介護福祉士国家試験合格発表について」によれば、2024年度の合格率はベトナム人受験者で88.8%、日本人受験者で78.3%。
「人づくり」に寄与できる制度になっているのか
技能実習生の失踪者について、来日前に支払った初期費用の平均額をみると、ベトナム人は約102万円であるのに対し、フィリピン人は約22万円でした(*3)。この差の背景には、フィリピン政府が技能実習生から斡旋手数料を徴収することを認めていないという制度的特徴があります。 日本では求職活動を行う際に斡旋費用を支払わないのと同様に、本来、求職者からお金を取ることは認められていません。これは国際労働機関(ILO)の国際条約(*4)でも定められていますが、多くの送り出し国はこの国際条約を批准しておらず、高額な斡旋料の徴収を認めている国もあります。その意味で、多くの送り出し国は斡旋料を本人負担とするイレギュラーな対応を取っています。
さらに、ブローカーに依存して来日する技能実習生の場合、初期費用はより高額になる傾向があります。ベトナム人では約110万円に達する一方、フィリピン人では約12万円にとどまっています。高額斡旋料の問題がある一方で、日本では高額斡旋料を徴収しているベトナムなどの国からの受け入れが増加しています。技能実習生がお金を払うことにより、受け入れる日本企業や団体が教育費用を負担する必要がない、現地を訪問したときに送迎や食事代などを払う必要がない、などのメリットがあるからです。

日本の中小企業を取り巻く経営環境が厳しさを増す中、人手不足への対応として、採用にかかるコストを借金として背負い、低賃金でも働いてくれる技能実習生に依存せざるを得ない状況が広がっています。こうした選択は、コスト制約の強い中小企業にとって現実的な対応でもあります。
一方で、2022年の厚生労働省の調査では、技能実習生を雇用する企業の約7割で、賃金未払いや安全衛生面など、何らかの労働基準法違反が確認されています。結果として、日本で働くことを望んで来日した技能実習生の労働環境や安全が、十分に守られていない実態も明らかになっています。
今後は、低コスト労働力への依存に頼るのではなく、働く人の能力を活かし、生産性や付加価値を高める雇用をいかに創出していくかが、中小企業の持続可能性と社会全体の安定の両面から重要な課題となります。待遇を良くすることで実習生に定着してもらい、生産性を上げようとしている企業もありますが、そうした余裕がない企業もあるのが実情です。技能実習制度は、本来は「人づくり」に寄与することを目指して始まった制度であるにもかかわらず、実態は必ずしもそうでなく、労働搾取さえ行われています。また、過酷な環境から逃れようとする人が増えることで治安維持などでの社会的費用も増加します。
今回の研究では、来日して労働したのちにベトナムやフィリピンへ送還された人々や、日本の介護・農業分野などでの聞き取り調査を通じて「非正規化」の原因を分析します。包括的で持続可能な日本社会をつくるためには、国籍に限らず、性別や年齢、障害の有無といった社会的アイデンティティにかかわらず、誰もが社会に参画できる制度と環境を整えることが不可欠です。人口減少が進む少子時代においては、排除ではなく包摂を前提とした社会の設計こそが求められています。今後どのような社会政策を取っていけばいいのかという改善策を提案したいと考えています。
(*3)<論文>国際労働市場と高額化する斡旋料 : 技能実習制度における価格管理の失敗(京都社会学年報(30),1-25,2022年12月)
(*4)民間職業仲介事業所に関する条約(ILO第181号)